岩黒島
岩黒島という島がある。
香川県坂出市岩黒。人口82人、34世帯*1。本土と陸上交通で結ばれていながら、離島振興法の対象指定から外れていない非常に稀な島だ。
二月も終わり梅の咲く頃、瀬戸内海に浮かぶこの小さな島へ行ってきた。
この日は本州から岩黒島を目指したため、岡山で電車を乗り換え、瀬戸大橋線で児島へと向かった。ここから岩黒島へ向かう路線バスに乗る。ここで「バス?」と疑問を覚えた人は鋭い。
岩黒島にはその人口規模以外にも大きな特徴がある。それは瀬戸大橋の橋脚が立地しているという点だ。
橋梁愛好家の自分としてはこれだけで上陸の動機になるのだが、普通の人にはだからなんだと思われるかもしれない。橋脚の載っかった島なんてゴロゴロある。けれど重要なのはここからだ。岩黒島には瀬戸大橋の橋脚が立地している、そしてその橋脚を伝うエレベーター以外に島への上陸手段はない。これがこの島最大の特徴だ。自分の知る限りこういった島は、岩黒島と今治の馬島以外にない。
そういうわけで、路線バスで瀬戸大橋(岩黒島高架橋*2)の上に降り立った。橋の上にバス停がある。ここからエレベーターを下って島へ上陸する*3。
エレベーターは橋の下り車線側にしかついていないから、そのままでは四国から来るバスを降りた乗客は島に降りられない。そのため橋の中を通る歩行者用通路が、橋の東側と西側をつないでいる。通路の壁には島の掲示板があって、冷然としたコンクリートとの対比がおかしかった。
岩黒島エレベーター。瀬戸大橋の主塔を除けば岩黒島最大の構造物であり、島内唯一のエレベーターでもある。左右に見えるループ橋は岩黒島連絡橋といって、島と瀬戸大橋とをつないでいる。先に岩黒島への上陸手段はエレベーターしかないと書いたけれど、島民に限ってはそうではなく、島民専用のゲートを通って連絡橋を降りてくることができる。
エレベーターを降りてあたりを眺めて見ても、小さな神社と民家が見えるだけ。離島を訪れるといつも感じることではあるが、普段にも増して人様の御宅へお邪魔しているような気分になってくる。しかしまったく人の気配がしないので、ひとまず港の方へ歩いてみる。
冷蔵倉庫のケースが積み重ねられている。漁網の整備をしていた女性がフグを養殖しているのだと教えてくれた。
打ち捨てられている重機が目に入る。
港から南西を望む。羽佐島(わさじま)、与島を経て四国本島へと続く瀬戸大橋橋梁群が見える。手前から岩黒島橋、与島橋。この島で生まれこの島で育つ人は、この光景に何を思うのだろう。
島の南に面する、海沿いの道を歩く。 岩黒島橋が間近に見られて嬉しい。橋マニア冥利に尽きるといったところだ。
橋脚の下に掲げられた念入りな「立入禁止」の表示がおかしい。こんなに人のいないところなのに。
橋をくぐって島の西側へ出る。
人がいないと思ったけれど釣り人はいた。
そういえば釣り人は橋の下でよく見かけるような気がする。立入禁止の表示もそういう懸念からかもしれない。
北の沿岸には道がないので、島の中央を突っ切って東へ出た。まだきれいな校舎のまま廃校になった学校がある。
黒い岩の転がる海岸は、どうやら島の名の由来のようだった。
一周して再び岩黒港へ。
異様なスケールの差が目につく。
これがこの島のほぼすべて。幼い頃おとぎ話で読んだ、巨大な樹が根を下ろす惑星を思い出す。
冒頭でも書いたけれど、岩黒島はとても小さな島だ。高齢化・過疎化が著しく、そう遠くないうちに無人化してもおかしくない。すると瀬戸大橋の管理上、島への立ち入りが制限される可能性も高い。
そうなる前に、この島と島から眺める橋の姿を残しておきたいと考えた。それがこのブログを立ち上げ、旅行記を書きはじめた理由の一つにもなっている。